終わりの無い戦いが始まった。私はミネルバの艦長として何をすべきなのだろう…考え始めるときりが無い。

Confusion

 ちゃぷん…

 私としては珍しく、バスタブに湯を張って浸かる。普段は節水等の関係からシャワーで済ませてしまう事が多いのだが、とても気が滅入っている時は贅沢させてもらっている。
「これって艦長の特典よね…」
 呟きながらほっと息を吐く。
 開戦してから本格的な戦闘を初めて経験した。しかも地上で。そしてシンの驚異的な力―本人は終わってからはっとしていたが、あれはクルーに衝撃を走らせた。
 戦闘をしてこの戦いに終止符を打つ日は来るのか心配にもなった。地球軍はあの変なモビルアーマーを開発した。今後両軍であのような物が次々と開発されたならば、戦争はいつまでも続くだろう…

 ビーッ

 不意に来客を知らせるブザーが鳴った。
 しかし不覚にも湯船でうとうとしてしまった私は、動く事が出来なかった。よほどの急用じゃなければ、来客者は諦めて出直すだろう。そう思っていると
「艦長、大丈夫ですか!?」
 来客はアーサーの様だった。部屋の外からそう叫ぶ声が聞こえた。
 声を聞いてやっと目が覚めた私はざばっと音を立て、湯船から出た。

「『大丈夫ですか!?』って何?」
 私は軍服を着るのが面倒だったからバスローブを着て来客を迎えた。
 彼は私を見て一瞬怯んだが、すぐ真面目な顔で言った。
「自分は、ブザーを鳴らしても返事は無いし、しかも微かにシャワーとは違う感じの水の流れる音がして、お風呂で溺れてしまったのではないかと思ってとても心配していたんですよ!」
 あまりにも必死に言うその姿が面白く感じたが、極力笑いを抑えて言った。
「馬鹿ね。そんな訳無いでしょ。ちょっと気が滅入っていたから、湯船に浸かっていたのよ。そんなに心配してくれたの?」
 言うとアーサーは赤面したが、安心してくれた様だ。

「で、何の用なの?」
「へっ?!」
「用があるから此処に来たのじゃなくて?」
 私が問うと、アーサーは 「はい…先の戦闘の時の戦闘記録、パイロット達のが揃ったので持って来ました」
 言って私にディスクを数枚渡した。
「ありがとう」
 私はディスクを受け取り、名前を確認した。
 …赤いラベルのルナマリア、白いラベルのレイ、そして青いラベルのシン。全員分あった。
 こうやって人ごとにラベルの色が違うと判り易い。ブリッジクルーなんて皆同じ色だから混乱しやすいのだ。
 それでは、とアーサーは踵を反し去って行こうとした。
「待って」
 思わず呼び掛ける。
「何ですか?」
 アーサーは立ち止まり振り替える。
「えっ…あっ…そう、さっき心配してくれたその心遣いに感謝するわ。だから紅茶でも飲んでいかない?クッキーもあるわ」
 にっこり笑って言うと
「良いのですか?」
 と驚いて言った。

 私はアーサーを部屋に招き入れ、ソファーを勧める。
「ちょっとそこで待ってて」
 私は紅茶をカップに注ぎ、アーサーに渡した。
「あっ…ありがとうございます」
 カップを受け取ったアーサーの手は震えていて、見ている私が心配になった。
「ちょっと。何震えているの?落ち着きなさい」
 私が声を掛ける。
「ひゃあっ…」
 アーサーは慌ててしまった様でカップを落とした。プラスチックのカップは割れないものの、中の紅茶は床に零れた。
「すっ、すみません」
「もう、しょうがないわね」
 カップを拾おうとするアーサーと私の手が触れ合った。アーサーはぱっと手を離した。アーサーによって拾われたカップはまた床に落ちた。
「アーサー。何をやっているのよ」
 カップを拾い上げた私は思わず説教モードに入った。
「…自分、艦長の事好きですから―それに艦長のその格好。だから自分は些細な事で動揺しちゃうんですよ!」
 思いがけない告白に私も動揺してしまった。

「艦長、好きです―」
 そう言って私にキスしようと…
 私はそれを拒否した。
「ごめんなさい…私は貴方の期待に答えられそうも無いわ」
 私が言うとアーサーは
「自分、待ってますから。いつまでも。いや、振り向かせて見せますから」
 しっかりと言った。
「紅茶、零してしまって失礼しました」
 アーサーはしっかり片づけをしてそれから艦長室を後にした。
 そんな彼を見送ってから、ふっと息を吐いた。

 あんなアーサー、始めて見たわ。何故だろう…?私の心は揺れ動いている。恋人である議長から熱心な一人の部下へと…



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