真っ赤なルージュ
「失礼します」
ぴしっと敬礼をして、アーサーは艦長室に入室した。ところが…
「あ…れ?」
そこに部屋の主の姿はなかった。
「艦長はどちらへ行かれたんだろう?それにロックもしないで行かれるなんて無用心ですし…」
タリアに直接伝えなければいけない用事だった為、アーサーは改めて出直すことにした。
「ん?」
ふと、タリアのドレッサーがアーサーの目に入った。そこにあったのは基礎化粧品と、眉を書く為のペンシル、そして真っ赤なルージュ。いつもタリアの形の良い唇を彩っているものだ。
アーサーはそれを手にとって見た。キャップを開け中身を出す。使い終わりらしく、中身はもう無かった。
「アーサー?」
「あっ、艦長」
気付いたらタリアが艦長室に戻っていた。急いでルージュを元の位置に戻す。
「艦長、どちらに行ってらっしゃたのですか?」
「貴方を探していたのよ」
「僕も探していました。実は例の件なのですが…」
アーサーは用件を伝える。
「ありがとう。私は貴方の休暇について言いたかったのよ。申告通り、明日の午後から明後日の午前中まで休んで頂戴」
「はい、解りました」
ぴしっと敬礼をしてアーサーは艦長室を後にした。
次の日。私服に着替えたアーサーはミネルバを出た。
基地内のショップに行き、生活必需品を一通り買う。
「…うん」
アーサーは決意を固め化粧品売場へ向かう。
「これ、下さい」
ルージュを一つ買った。それを他の買い物と一緒に袋へ仕舞う。その際、ルージュは一番奥深くに仕舞われた。
「艦長、気に入って下さるだろうか…?」
考えていても仕方が無いので、アーサーはそのまま眠った。
「ただいま戻りました」
申告した休暇を終え、アーサーは艦長室へ戻った事を伝えに向かった。
「休暇はどうだった?」
書類と格闘していたタリアは、いささか不機嫌だった。
「有意義に過ごす事が出来ました。――それとこれ。艦長にプレゼントです」
「えっ?」
アーサーは買ってきたルージュを渡す。
「?…ありがとう」
とりあえず受け取るタリア。顔には明らかに不思議であると書いてある。
「では」
アーサーはそれを渡すとすぐに艦長室を出て行った。残されたタリアはまじまじと渡されたものを見る。箱を開け、中身を確認する。キャップを開けると、そこには真っ赤なルージュ。タリアがいつも使用しているものとは微妙に違い、それよりも深紅なものだった。
「ふふっ」
思わず微笑む。
「可愛いじゃないの」
ルージュの入っていた箱には走り書きで「艦長には赤が良くお似合いです」と書かれていた。気付くとタリアの機嫌は良くなっていた。
「今度はこれをつけて行きましょう」
タリアはルージュをドレッサーに仕舞った。
後日…。
「アーサー?」
タリアはアーサーに声を掛ける。
「はい?」
振り向いたアーサーにちゅっ、と唇が触れた。
「この間のお礼よ。ありがとう」
「///」
アーサーの顔はルージュの様に赤く染まった。
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