海辺

 戦争も終わり、世界はまた、平和の為に動き始めていた。そんな中、アーサーはタリアを食事に誘った。
「艦長、どこかに食事にでも行きませんか?」
「どこかってどこに?」
「あっ…ぇっ…」
 尋ねられて返答に困るアーサー。くすり、と電話口からタリアの笑い声が聞こえた。
「いいわよ。いつ?」
「あっと…今週の土曜日はいかがでしょうか?場所は行ってからのお楽しみです」
「土曜日?ん…あっ、大丈夫よ」
「じゃあ、3時頃にそちらに行きますから」
「解ったわ」
 そうして電話は切られた。電話の向こう側にはアーサーを可愛いと思ったタリアと顔が火照ったアーサーがそれぞれ居た。

 土曜日…
 3時をちょっと過ぎた頃、タリアの部屋の呼び鈴がなった。
「アーサー・トラインであります」
「わざわざ部屋まで来てくれるなんて…。でももうちょっと待ってて」
 アーサーを部屋に招き入れる。ちょこちょこと進むアーサー。ソファに座るよう勧め、タリアは支度を続けた。
「おまたせ」
 奥の部屋に居たタリアが出てきた。
「じゃあ、行きましょうか」
 二人はアーサーのエレカに乗った。

「今日は何処まで連れてってくれるの?」
「それはまだ秘密です」
 エレカは順調に進む。山の中を走っていたエレカがそこを抜けた。
「わぁ…」
 思わずタリアは歓声を上げた。抜けた先には海が広がっていた。
「此処はプラント新設プログラムの一環として、実験的に海を作った所だそうですよ」
 アーサーが説明する。それをそこそこ聞きながらタリアは海を見続けていた。確か大戦中、地球に降りて見た時以来だろう。
「アーサーは何故こんな場所を知っているの?」
 タリアが問う。
「僕の父親がこのプログラムに参加していまして。初めて行った時に、艦長にも是非見て頂きたいと思ったんです」
「この間も思ったけれど、もう私は艦長じゃ無いわ。その呼び方は止めて頂戴?」
「えぇ~っ!じゃ…じゃあ何て呼べば良いのでしょうか?」
「貴方の好きな様に呼んで頂戴」
「はぁ…」
 結局アーサーはタリアを何と呼べば良いのか決められなかったらしい。黙りこくってしまった。

「…着きましたよ」
 キキッ、とエレカはとある店の前で止まった。
「どうぞ」
 アーサーはタリアをエスコートする。
 そんなアーサーに少し驚きつつもと受けた。
 店に入ると、人の良さそうな男性が出た。
「店長さん。お久しぶりです」
 アーサーが声を掛ける。
「いらっしゃいませ。どうぞこちらへ」
 店長は二人を窓際の席へ案内した。

「今日はありがとうね」
 フレンチ料理のフルコースを食べる。夕日は沈み、外に有る電灯が海を静かに照らしていた。
 帰りの車の中、タリアは寝てしまった。
「タリア…?」
 アーサーは運転しながらタリアの寝顔に声を掛けた。極めて小さな声で。
「…なんて面と向かって言える訳無いよな」
 エレカは渋滞で止まるなんて事はなくすいすい進んでいく。そしてアパートの前で止まった。
「着きましたよ」
 軽く体を揺すりタリアを起こす。
「ん…」
 軽くしかめ面をし、それからタリアは起きた。
「部屋までお送りします」
 寝呆けてぽぉとしているタリアを支えながらアーサーはタリアの部屋へ行く。部屋に繋がる廊下は狭く、暗かった。その為にアーサーは歩くのが困難だった。

やっとの事で部屋に着き、タリアは鍵を開け、部屋に入る。
「鍵、ちゃんと閉めて下さいよ」
 何故だかタリアが物凄く心配になったアーサーは念を押した。そしてかちゃん、と鍵を掛けたのを確認したのち、自分のエレカに戻り、家へと帰っていった。
「ん?」
 運転しながら床に落ちている何かを見つけた。見るとずっとタリアが大切に持っていたペンダントだった。
「これ…渡さないと」
 アーサーは電話を掛けようとする。しかしタリアは既に寝ているだろうから後日掛け直す事にした。
「でも…まぁ、また会う機会を得られたから良いか」
 アーサーはそっとペンダントを引き出しに仕舞った。



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