事の発端

「私は何をやっているのかしら…」
 タリアは隣でバスローブを着ている男―ギルバート・デュランダルを見ながらそう思った。自分はと言うと布切れ一枚も纏っていない姿でシーツに包まっている。
 この男とは昔からこのような関係だった。しかし進水式も行っていないのに、戦闘を行い、それが終わったばかりで整備士が必死に艦の修理を行っている今、この男とこんな事をしていていいのだろうか?否。やっていていい訳が無い。

 タリアとギルバートは一度別れていた。その原因のひとつがミネルバ艦長に決定した時の話だった。
 ミネルバの艦長を決める時、何人かの候補者の中にタリアも居た。しかし、彼女が選ばれる可能性は低かった。理由のひとつが「女だから」
 ギルバートは恋人のタリアを是非とも艦長にしたかった。

彼女は有能だし、クルーの面倒見も良いだろ。そう思っていた。だから、彼は議長を言う立場を利用して彼女を推薦した。そのおかげでタリアはミネルバの艦長職に就く事が出来た。同時に「ミネルバの艦長になった女は議長と寝て艦長職を取った」という話が上層部を中心に流れた。
 2人はそれを否定していたが、100%違うと言い切れる自身は無かった。いい大人の2人が体の関係が全く無かったとは言えない。ギルバートが彼女はいい人だと言ったのも2人が付き合っていて本性を知っていたからだ。
 タリアはもうそんな事で仕事を取ったとは言われたくなかった。他にもいろいろな都合が重なっていた為、2人は結局別れてそれぞれの仕事に専念していたのだ。

「タリア、一体何を考えているのだい?」
 じっと見ていた為か、ギルバートが尋ねてきた。元から長くふわふわとしていた髪は心なしか乱れている。
「私、もうあなたと寝るとは思ってもみなかった物で、今こうしているのが不思議でたまらないのよ」
「私は君が私の元へ戻ってくる日があると判っていたのだがね」
「…んっ…」
 不意に首筋に感じた唇の感触。強く吸いつけられるような感じのしたその辺りは桜の花びらのような痕が残っていた。
「この印が私の物だという証拠さ。また戻ってくるだろう」
 不敵な笑みを浮かべるギルバート。タリアが反論する前にブリッジから通信が入りユニウスセブンが動いていて地球に落ちるであろうという事が知らされた。
「本当に私は何をしているのかしら…」
 そう思いながらタリアは軍服に着替え仕事に戻っていった。



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