―最初に会った時は何を考えているのか解らない得体の知れない人だった。



 ギルバートとタリアの出会いは先の大戦の前、ギルバートがZ.A.F.T.の施設に足を踏み入れた事だった。彼が来たのは本来来るべき人が急に都合が悪くなった為だった。そこで特にやらねばならない仕事が無かったタリアが付き人になる事になったのだった。
特に会話をする事無く2人は施設内を歩く。正直タリアはギルバートの事がよく解らなかった。
 評議委員の時期メンバー候補な事は事前に知らされていた。しかし軍の設備を候補が見に来るだろうか?そしてその風貌。黒い長髪は宣教者の様な感じもするが、ぱっと見怪しいものがある。
ギルバートは常に笑みを浮かべている。彼の表情からは何を考えているのか解りにくい所がある。それがかえってタリアの気を引いてしまったのだ。
「…どうかしたのかね?グラディス殿?」
 はっとタリアはギルバートの方を見る。タリアを見る目は綺麗なハシバミ色をしていた。その瞳を見ると吸い込まれそうな感覚に陥った。
「いいえ、別に。ちょっと考え事をしていただけですわ」
 そう言って苦笑するタリア。ハシバミ色の瞳はじっとタリアの事を見ていた。

 その後正式な評議委員になったギルバートはその施設を訪ねる事が多かった。そしてその度にギルバートはタリアを付き人に指名するのだった。
 合う回数が増えていった。最初は施設内のみだったのがいつしか外で度々会う事となっていた。特に「好きだ」等に値する言葉を交わした訳ではないが、周囲の目も本人達の意識も「恋人同士」という事に落ち着いていた。
 戦争が激しさを増し、タリアも出撃する事となった。
 別れ際、ギルバートはタリアに指輪をプレゼントした。彼女の誕生石であるダイヤモンドの指輪だった。
 タリアはそれをチェーンに通し首にかけて戦場へ赴いて行った。その指輪は戦後二人が別れるまで首に架かっていた。今は艦長室のデスクの抽斗の中に入っている。

「どうしたのかね?タリア」
 傍らに居るギルバートがタリアに問う。
「何でもありませんわ。ちょっと昔を思い出していましたの」
「ん?」
「私が初めて貴方に会った時の頃の事。懐かしかったわ」
「あの頃に戻りたいのかね?」
「いいえ、そんなではありませんわ」
 タリアを見るギルバートの目は綺麗なハシバミ色をしている。タリアはこの目に魅せられていたのだ。もちろん今も。



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