Thousand Nights
※当時にしてはアダルティってかアウト?

 今日もいつも通り陽は落ちた。私は今日もある店に足を運ぶ。蒼い月夜だった。
 「Thousand Nights」それが店の名前だ。オークの木の扉をギィと開ける。店内の風が流れ込んできた。店は暗く、妖艶な雰囲気が立ち込めている。
 カウンター席に座り、いつも通りの酒を注文する。店内ではアラビア風の音楽が流れていた。それはとても店の雰囲気に合っていた。
 一人で飲んでいると、何処から来たのか女が一人、また一人とやってくる。そして一人、また一人と去って行った。私の目的はコレだ。欲望を満たしたい時、この店にやって来て「一夜限りの女」を探す。こうして私の周りにやってくる女達はそれを知っていてやって来る。運良く相手になって、私の資産を頂こうなどと考えている面白い女達だ。

 しかしそんなに上手くいく女は居ない。私にとって女とは欲望を満たす為の「モノ」なのだ。恋愛の対象の女など、私には必要ない。
「隣、よろしくて?」
 また女が一人やってきた。
「…」
 私が黙っていると、女は私の隣に腰掛け、酒を注文した。珍しい赤いカクテルだった。
「こんばんわ。私、前から貴方に興味があったのよ。少し話さなくて?」
 女はカクテルを少しずつ飲みながら話しかけてきた。舌足らずな喋り方な気もするが色っぽい感じだった。今までの女達は可愛く媚売ってくるような奴らばかりだったので、少し興味深かった。
 顔を上げて女を見る。蜂蜜色の癖の強い髪に、蒼い目。眼差しは鋭く、強気な女の様だ。深紅のピアスも印象に残った。面白い、と思った。
「勘定頼むよ」
 私は女の分も勘定を払う。女は
「ありがとう」
 そう言った。そうして私達は店を後にした。


「名前…一応聞いておこうか」
「タリア、よ。貴方一々女の名前聞いてるの?以外だわ」
 車内で名前だけ聞いておく。自分で考えても珍しい事だった。そして女―――タリアも少し癪に障る様な感じだった。
「これから…どうするつもりなの?」
「言わずとも解るだろう?解るから近づいてきたんじゃいか?」
「そりゃあ…そうね」

 車は私の別宅の一つに到着した。ちなみにいくつもある別宅の中でもっとも使う事が少なく、もっとも高いものだった。基本的に人は来ない。それだけの価値がありそうな気がしたから連れて来た。
 鍵を開け部屋に入る。そして鍵をしっかりと閉めた。

「…あっ……ん……」
部屋に入るなり、彼女をベッドに押し倒し唇を奪う。最初は抵抗していたが無理やり口内に忍び込む私の舌に自分のそれを絡ませてきた。
 そっと服を脱がせる。元から薄着だった彼女はあっと言う間に生まれた時に姿に戻っていた。
「跡…付けないで下さいね」
 ようやく唇を離すと釘を刺すように言った。しかし彼女の声はもう濡れていて、説得力が無かった。
「保障は…しない」
「やめっ…」
 鎖骨の辺りに赤い痣を付ける。タリアの白い肌に花びらが散った様だ。もう一つ、もう一つ…痣はどんどん増えていく。
「ぃ…ゃ…」
 さっきまでの強気は何処に行ったのか、タリアの目が涙目になる。私はそんな顔を見てにやりと笑う。女を泣かせる事は正直好きだ。

 本能の赴くままに、彼女を攻めて行く。彼女はそれに耐えていた様だが、そんなのはお構い無しに彼女が感じる秘密の場所を探り当てるべく指を、舌を、体に滑らせている。
 くちゃくちゃと嫌らしい音とタリアの声、そして荒い息遣い。それだけが部屋に響いていた。
「ね…もぅ…いいでしょ…?」
「いやまだだ…」
 指を使ってある一点に強い刺激を与える。
「…!!」
 何度も何度も高みに上がらせる。仰向けに寝かせ後ろから突き上げる。休む間も無くまた攻める。そして自分自身も何回も頂点に達していた。


「…」
 ベッドに横になっていたタリアはふっと体を起こしベッドを出た。私はタリアの腕を掴んだ。
「放して下さる?」
 眉をぴくりとも動かさず言い放つ。
「嫌だな」
 ぐいと腕を引っ張り、ベッドに引きづり込む。
「私の聞いていた話だと去る女を構わないと聞いたけれど。または自分はさっさと帰ってしまうと。こんな風にするなんて、帰りたくないの?帰したくないの?」
「さぁな」
「仕事に行かないと。出来れば帰して頂きたいわ」
 そういう仕草が妙に可愛らしかった。
「出来れば、だろ?何の仕事をしているんだい?」
 タリアの体を弄びながら尋ねる。時々喘ぎ声を上げながらも彼女は答えた。
「ザフトの…ん……軍人です…わ…ぁぅ……ぁ…」
「どおりで体付きがいいものだ」
 ちょんと秘部に触れる。タリアの体が弓なりに反った。
「そして反応も良い」
「…最悪」
 私は笑ったが、タリアはそう言い切った。しかしその表情を見ていると、辱めながらも満更でもない感じだった。

「どうだ?もしこのままの存在なら軍での地位も保障できると思うが?これでも結構上層部に顔が利くのだがね。女は出世しにくいだろう?」
 二人とも帰り支度が終わってから私は言った。どうもこのまま帰すのにはもったいなかった。
「ご冗談を。私に貴方に抱かれるだけの女になれと?」
「『一夜限りの女』を探していた筈なのだがね。君はいいパートナーになれそうな気がしてね。気が向いた時に来ればいい」
 私はタリアにこの部屋の合鍵を渡した。タリアは何も言わずポケットに鍵を仕舞った。
「さようなら」
 タリアは部屋を後にした。私は部屋を出る振りをしたがまた部屋に舞い戻り、ベッドに倒れ込んだ。
「タリアは…また来てくれるだろうか?」
 遊びのつもりが、いつの間にか本気になっていた。不覚にも彼女をもっと欲しいと思ってしまった。恋とは…また違う気がしなくも無いが。
「次に会った時は…捕らえる」
 私の手は何も無い空を握り締めた。次に彼女が来た時は必ず私のものにしてみせる。そう誓った。


 それ以来私は「Thousand Nights」に足を踏み入れていない。



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