telephone
深夜。艦長室で一人、端末を用いて世界情勢のニュースを見ていたタリアは、ふとスケジュール表を見た。
その時、丁度日付が変わり、四月八日になった。無機質なアラーム音が艦長室に鳴り響いた。
「…今日だったのね」
アラームを止め、独りごちる。今日はタリアの誕生日だ。この歳になると、特別誕生日なんかを気にする事は無くなる。それに場所が場所なので時間の感覚も無くなり、日にちを特別気にしなくなっていた。
「あの人は…覚えていてくれたのかしら?」
タリアはふとギルバートの事を思い出していた。確か先日のギルバートの誕生日には、秘密のルートを介してプレゼントを贈った。毎年誕生日は互いに時間を空けておいて直接プレゼントを渡していたが、今年は無理だった。
それに普通に送ると、途中で第三者に見られてしまう可能性があり、関係が公になってしまう。タリアはそれは避けたいと思っていた。無論、ギルバートも同じだろう。
「覚えていてくれても、連絡するのは無理よね」
休憩がまもなく終わるので、タリアは艦橋に行く準備を始めた。軍服の襟を止めようとした時、艦内通信の呼び出し音が鳴った。
「何?」
「艦長、議長より通信が入っています」
「…議長から?繋いで頂戴」
「はい」
しばらくして端末にギルバートが映った。
「こんばんわ。どうなさったの?」
「ちょっと君の顔が見たくてね。通信させて貰った」
「通信させて貰った?どちらから掛けていらっしゃるの?」
聞くと近くの都市かららしい。
「まだ地球にいらしたのね」
「ん…君に連絡を取る為に我が儘言って地球に残っていたのだよ」
「え?」
タリアは驚きと同時に呆れてしまった。
「全く…なのを考えていらっしゃるのか私には理解出来ませんわ」
「君の為に地球に残っていたのに、そんな事を言われて心外だな」
ギルバートが苦笑する。最初は険しい顔をしていたのに気付くとタリアも笑っていた。
その後、時間を忘れて話をしていた。話の内容の大半は昔話と世界情勢の話だった。昔はタリアの髪は長かった事、先日の戦闘で地球軍がまた支配国を増やした事、その他もろもろ。
話をしながらタリアは密かに期待していた。「誕生日おめでとう」と言ってくれるかと。何だかんだ言っても、誰かに祝われると嬉しいものだ。しかしギルバートはそんな事は微塵も出さなかった。
「か…艦長。お話中申し訳ありませんが」
急にメイリンが通信に割り込んできた。
「何?」
「あの…司令部より通達が来ています、至急返信願います、との事です。転送しますか?」
「解ったわ。艦橋へ行きます。…という事で議長、これで失礼しますわ」
タリアは一方的に通信を切ろうとした。
「タリア…言い忘れていたが」
ギルバートはタリアを見て笑った。いつもの笑みとは違い、非常に優しい笑みだった。
「誕生日おめでとう、タリア。…愛してるよ」
「…ありがとう。私もよ」
言うとどちらとも無く通信を切った。
「メイリン。さっきの通達の件なんだけど」
タリアはブリッジに入るなり聞いた。何故か艦橋クルーは顔が赤くなっていた。
「?」
タリアは不思議そうな顔をする。メイリンは急いで司令部からの通信を開き、タリアに見せた。
「…?どうしたの?」
司令部に返信を終えたタリアは、メイリンに尋ねた。メイリンは恥ずかしそうに答えた。
「…艦長と議長の会話は始めから最後まで全て艦橋に丸聞こえでした」
「え…」
嘘、と呟くもそれは紛れも無い真実だった。
「だから軍の通信は…」
珍しく動揺しているタリア。ぶつくさ呟いている。
「でも、会話を聞いてたら艦長は議長に愛されてるんだなって思いました。羨ましかったです。あっ、会話の内容は厳守しますよ」
メイリンが正直な感想を述べると、
「そう?私もあの人の事、愛してるわ」
タリアが言った。きっぱりと言い切るタリアはとても格好良かった。
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