望んでいたのは平凡な日々なの…
髪の毛
ある秋の穏やかな日の事だ。ムウとマリューはリビングのソファに座ってめいめい本を読んでいた。
マリューは有名作家の最新の文庫本、ムウは…士官学校の教官が必読しなければならないある軍人の本を読んでいた。
特別言葉を交わすわけでもないが、一緒に居て穏やかな時間を過ごせると言う事は二人にとって、この上ない幸せな時だった。
ふとムウは顔を上げ、文庫本を読み耽っているマリューの髪を指に絡ませながら言った。
「髪、綺麗だよね」
マリューは文庫本から目を離し、ムウを見ながら言った。
「そうかしら?まとまり難いから私はあまり好きじゃないんだけれども」
「そうかい?君の髪は綺麗な色だし、指通りがいいし俺は好きだな」
「でも、先の方がくせで変な風になっちゃって」
「おいおい、そしたら俺の髪はどうなんだよ。この見事なくらいのくせっ毛は頑丈だから直んないぜ。」
「…」
「俺は君の全てが好きなんだ、マリュー」
指を髪から離し、マリューをぎゅっと抱きしめるムウ。その暖かい感じに身を包まれながらマリューは「私も好きよ」と言って頬に口付けをした。
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