信じていれば起こる、クリスマスの奇跡―
サンタがやってきた
町中クリスマスのイルミネーションに飾られ、全体的に賑やかである。
マリュー・ラミアス―彼女もその賑やかさの中で笑顔を振りまいている。…数年前の彼女からはとても考えられない笑顔だった。
彼女はヤキン・ドューエ攻防線の折に恋人であるムウを失った。その時のショックは計り知れないもので戦後の彼女は精神的にヤバかった。ただ彼女の中にある大きな責任感が手助けをした為、毎日の戦後処理により知らぬ間に復活していた。最も彼女の奥底にあるものは当人以外知らないのだが。
「どうして…」
マリューは泣いている。周りに何もなく、ただ真っ黒な闇が広がっているだけだった。
「…還ってくるって言ったじゃない。私が生きていても、貴方が居なかったら何の意味もなさないわ」
マリューの声は遠くまで響き、やがて消えた。
辺りにまた静寂が戻りしばらく経って、遠くから男性の声がした。
「俺は不可能を可能にする男って言っただろ?」
聞き覚えのある声。マリューははっと声のする方を見た。黒い連合の服を着て仮面をした長髪の男。見た事の無い男だが彼を見上げる角度はあの人を見上げる時と同じだった。
「ムウ…?」
仮面に手を触れ、そっと外した。
外した後には何度も見た顔。綺麗な青い目。何度も何度も触れ合った唇。間違いなくムウ・ラ・フラガだった。
「今はまだ君の所に帰れない。やらねばならない事があるんだ」
そう言うムウの目は真剣なものだった。そして悲しげだった。
その青い目にじっと見られ、マリューはどきどきしていた。
「…きっといつか…帰ってこれるの?」
そう言うのがやっとだった。
「…いつになるかは解らないけどきっとな」
そう言った所でマリューは目覚めた。単なる夢であるのに妙に現実感のある夢の様にマリューは感じた。
その日以来、マリューはまた戦前の状態に戻った。「遂にフラガの死を受け入れたか」と言うものが出たが彼女は気にしなかった。いつかムウが帰ってくる、絶対に―それだけ信じて生きていた。
そして迎えた戦後3回のクリスマス。町中クリスマスのイルミネーションに飾られ、全体的に賑やかである。
マリュー・ラミアス―彼女もその賑やかさの中にいて笑顔を振りまいている。その笑顔が一瞬凍った。マリューは共に買い物をしていたミリアリアに先に行くように言った。その尋常じゃない顔と声を察し、ミリアリアは荷物を持ってラクス邸に向かった。
「…嘘でしょう?」
すでに彼女の瞳は潤っていた。
「…ただいま、マリュー。帰ってきたよ」
何も言わずムウに抱きつくマリュー。それを抱き留めるムウには温かなぬくもりがあった。
「温かい…」
呟くマリューにムウは囁く。
「マリュー、もう君を離さない」
2人の互いを抱き締める力が一層強くなった。
「クリスマスにサンタクロースが来たわ。私に幸せを運んでくれたの」
2人は手を繋ぎ共に帰っていった。これから2人が暮らす幸せな家へと。
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