理由
「そう言えば。何故マリューは軍に入隊したんだ?」
コーヒーを飲んでいたムウは、ふとマリューに尋ねた。マリューは少し間を置いてから話し始めた。
「私が入隊した理由はね、進路を決めた頃から世界情勢は悪かったから。だから微力ながらも軍で活動して、平和な世界にして行きたかったのよ」
苦笑しながら続ける。
「私の家では兄の進学代しか出せなかったから。学費免除が適用される学校を探したら士官学校だったってわけよ。そう言うムウこそ、何でパイロットになったの?」
あっさりとムウが答える。
「家が無かったから。寮生活が出来る場所を選んだだけだったんだ。乗り物が好きだし適性検査を通ったからパイロットになった」
「入ってみて、どうだった?」
マリューがちょっと興味深げに尋ねる。
「う~ん。衣食住に困らなかったけど人を殺さなくちゃいけないだろ?後味悪いったらありゃしない。やり切れないな。マリューは?」
逆に尋ねられマリューは答えた。
「…私は元から機械いじりが好きだったから技術士官になれて良かったとは思うわ」
此処で一回コーヒーをすする。そして続けた。
「でも『世界が平和になるように』と思って入隊したのにまだ世の中戦争の真っ只中よ。いつになったら終わるのかしらね…」
だんだん俯き、はぁと溜息をつくマリュー。その悲しげな横顔をムウは見ていた。
「実はさ、『理由は?』と聞かれると困る事って多いよな。さっきの入隊理由のように」
しばしの間があってからムウは急に話し出した。
「…そうね。『戦争をしている理由は?』答えられそうで答えられないわ」
「俺は入隊してよかったと思ってる。理由は…マリュー、君に逢えたから」
ちょっと照れ臭そうに言うムウ。赤面しながらマリューは答えた。
「ありがとう。ちょっと台詞が臭かったような気がするけど。私もムウが好きよ。理由は…好きになっちゃったから」
思わず笑い合って、またコーヒーを飲んだ。この間だけ、2人は幸せを感じていた。
戻る